Propの失敗談
T型格納庫内物損事故
どんなに気をつけていても、いつかはどこかで起きてしまう事故。その数を0にすることは難しいですが、対応の仕方によって0に近づけることは可能です。事故や失敗を教訓に、同じことを二度と起こさないようにするためにも、今回は私Propがしてしまった失敗談の一つを紹介します。
私の職場では、お客から飛行機の修理や整備の注文を受けると、まずその飛行機を取りに行きます。飛行機は野外の駐機場に置いてある場合と、雨風を凌げる格納庫に置いてある場合とがあります。野外にある場合は、まずその飛行機に外傷がないか確認して、地面に繋いである縄を解いて、Engineを始動して整備場までTaxiingします。格納庫にある場合は、傷が無いことを確認した後、飛行機を外に運び出してからEngineを始動します。そして作業後は格納庫に再び入れることになります。この格納庫に出したり入れたりの作業が意外に一苦労なのです。

T-Hanger内のPA-32R-301T、 Piper Saratoga II TC
翼端から壁までの距離は約50cmです。
格納庫の一番小さなものは通常T-Hangerと呼ばれます。小型飛行機一機が丁度入る大きさと形をしています。上から見るとT字型であることが名前の由来です。Cessna 172やPiper Archer程度の大きさならば、翼から壁までの距離も十分にあって苦労もしないでしょう。もっとも、そのような比較的安価な飛行機はわざわざ格納庫に入っていることなどなく、大抵は大柄で高価なBeechcraft Bonanzaや、Piper Saratoga II TC/HP、双発のPiper Senecaなどの飛行機が入っています。これらの飛行機を格納庫に入れると、翼端から壁までの余裕は片側50cmから1m程度しかありません。Piper Senecaに至ると、場合によっては30cm程度しかない場合もあります。しかも、大概の人たちは格納庫内に机や棚などを置いていたりするので、さらに狭くなります。基本的には格納庫の扉を全開にして、飛行機をまっすぐに動かせば当てることはないのですが、機首から翼端を見ると今にも壁にぶつかるように見えます。二人で作業を行えば確認をしながら出来ますが、人員の制限もあって、大抵はEngineや電気駆動のTugと呼ばれる機械を使って一人で出し入れをします。

T-Hanger内のA-36、 Beechcraft Bonanza
翼端から壁までは約1m。上の写真のSaratogaよりは少し余裕がありますが…。
さてその日。私は作業を終えたPiper Saratoba II TCを上記のT-Hangerへ運び、Tugを使って格納庫内に入れました。何度行っても緊張する作業です。これだけ狭いのだから、自分もいつか主翼や尾翼を当てて壊すのかもしれないと思いました。もちろん、そんなことは望んでいませんが。この時は運良く何も壊すことはなく、無事に入れることができました。上司から次の仕事を引き受けて、また別のT-Hangerに向かいます。次はBeechcraft BonanzaのAlternator Warning Light (発電機不作動を知らせる警告灯) の修理です。簡単な作業なので、お客のT-Hanger内で修理します。Lightが正常に作動するかを確認するには、Engineを掛けなくてはいけません。格納庫内に備え付けのEngine駆動のTugを使って無事に外に運び出すことは出来ましたが、この時、このTugは駆動力が掛かっていると、前後進の切り替えが硬くて動かないことに気付きました。切り替えにはまず、本体を持ち上げて負荷を減らしてから切り替えなくてはいけないようです。

問題のEngine駆動の一輪車型のTug。飛行機の前輪に繋げて使います。
Engineを始動して、Alternator Warning Lightがきちんと作動することを確認します。簡単な作業です。Engineを止めて、再びTugを繋ぎ格納庫に入れます。やはり切り替えが硬くてうまく行きません。飛行機を格納庫の中心線に合わせるために、何度か格納庫内で入れ替えを行います。そのうちに、Tugが後進のまま戻らなくなりました。焦る私。しかし進み続ける飛行機。成す術もなく、飛行機は格納庫の柱にぶつかり止まりました。…ついにやってしまいました。愕然…。

左: BonanzaのElevator。端までほとんど一体構造のような作りです。
右: Piper Saratoga II TCのStabilator。端が樹脂製で簡単に取り外しができます。
Tugを止めて見に行くと、左側のElevatorが格納庫の角の柱にぶつかっていました。Elevatorの角がつぶれ、10cmくらいの長さで外板が剥れてしまっています。端だけ交換すれば簡単だと望みをかけましたが、そのElevatorの構造を見て、再び愕然。Cessna 172やPiper Archerなど普通の飛行機は、翼の端は樹脂製の別部品になっていて取り外しが簡単です。しかし、この場合はElevatorの上側から下側まで一枚の板で整形されていて、端まで一体品に近い構造です。まさか途中でツギハギにするわけにはいきませんし。修理費が高くなることは一目で分かりました。

職場で使用している、前輪を乗せて運ぶTug。
今回の失敗を教訓に、どうすれば防げるかを考えてみたいと思います。これを読んで気付いている方もいるかもしれませんが、一輪車型のTugの場合は単にTug本体を持ち上げればよかったのです。前輪をTugに乗せて動かす型や、自動車のように乗って動かす型の場合はそうは行きませんが、一輪車型の重さはせいぜい10kg程度。持ち上げれば簡単に動きが止まります。ぶつけてしまってから、そのことに気付きました。焦ると冷静な判断が出来ません。また、狭い格納庫の中で、飛行機を左右に振るのは危険です。飛行機が仮に中心線にあっても、思わぬ方向に行っていて、今回のように尾翼が壁に当たるかもしれません。

自動車型の乗って操作するTug。
T型格納庫内における衝突事故防止策
(1) 扉は全開にする。
(2) 翼端延長線上に障害物がないことを確認する。
(3) 格納庫の入り口で飛行機を中心線に乗せてまっすぐにする、そのまま一直線に後ろに進める。
(4) 大きくずれたら、再び出して修正。
(5) 可能な限り見張りを頼む。
この5つを守れば今回のような事故は防げると思います。
後日、このBonanzaは左側のElevatorを交換することになりました。外板を交換することを考えていましたが、それに掛ける時間と部品の金額を考えると、交換の方が安くなるそうです。2週間後、左側のElevatorを交換してBonanzaは無事に格納庫に戻りました。しかし、この失敗が原因で、格納庫からの飛行機の出し入れがさらに怖くなってしまいました。
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