PA-32R-301T (Piper Saratoga II TC)
Oxygen Bottle Removal
高空飛行用酸素瓶取り外し作業
暑い真夏に最もやりたくない仕事の一つは、多分今日のこの仕事です。今日は、Saratoga II TCのOxygen Bottle (高高度飛行用の酸素瓶) を検査に送るため、取り外し作業を行いました。Oxygen Bottleは3年に一度の水圧を掛けての圧力検査が義務付けられているためです。このOxygen Bottleは客室後部のEmpennage内に横向きに取り付けられていています。小型機の限られた容積を考えると、ここしか取り付けられる場所がないのは分りますが、何とも難しいところに付けてくれたものです。
このPiper Saratoga II TCのMaximum Operationg Altitude (運用上昇限度) は20,000ftとなっていて、その高高度飛行が可能な性能を持っているため、このOxygen Systemは標準装備になっています。私はまだこんなに高い高度まで上昇したことはありません。Piper Arrowで過去に12,000ftまで上昇したことがあるくらいです。旅客機の飛行する、30,000ftや40,000ftに比べれば、20,000ftなんて低い高度と思うかもしれません。でもこの高度をよく考えると、とても厳しい世界ということが判ります。例えば、海面上の気温を15度C、気圧を29.92in-Hg (1013.25hPa) とする標準大気で考えると、20,000ft上空では気圧は地上の約3分の1の9.92in-Hg、気温はー24.6度Cになります。この状況での酸素量では、人間は30分で意識を失うと言われています。与圧設備を持つ、Piper Malibu Mirageは30,000ftまで上昇できますが、この高度で与圧と酸素の補給を失うと、意識が無くなるまでの残された時間は1−2分。ほとんど宇宙空間のような世界です。安全と健康のために、与圧設備の無い飛行機では、10,000ftを超えたら酸素補給をした方がよいとされています。気温の厳しさに関しては、説明するまでもないですね。
操縦席を見ると、Pilot側の操縦桿の右下にOxygen Pressure Gauge (酸素圧力計) とその下に黒いSwitchがあります。天井にあるOutletにMaskを繋いで、Switchを手前に引いてOnにすると、酸素が供給される仕組みになっています。
機体最後部から見たところです。上に緑の瓶が横向きに置かれているのが見えます。手前に見えるオレンジ色の箱はELT (Emergency Locator Transmitter: 緊急無線発信機) です。
機体後部に潜り込むための準備をします。後部座席の後ろに、その入り口があります。そこにはBatteryや電子機器などが取り付けられています。その上の棚に緑色に塗られたOxygen Bottleがあります。要は、この中に入って、緑の瓶を取ってくればよい話です。この作業の注意点は、油類をOxygen SystemのFittingに付けないことです。試したことはありませんが、火災の原因になります。そして、取り外した瓶を落とさないこと。丸いので、手から転がってしまうこともあるかもしれません。
そのまま入っても、いろいろな装置がそこにあって、怪我をしたり壊したりするだけですので、ここでは布団を敷いて、快適に作業が出来るようにします。
進入開始後20秒で撤退。無理でした。この飛行機にはBatteryの後ろにBF Goodrich社製のTCAS (Traffic Collision Avoidance System: 航空機衝突防止装置) が装備されていて、それがさらに進入を難しくしています。仕方なくTCASを取り外しに掛かります。落とさないよう、倒さないよう、慎重に。これがいくらするのかは私には分かりませんが、考えないようにします。
これでようやく奥まで入ることが可能になりました。それでもかなり狭いです。機内に持ち込んだ工具も、視界の外にあって見えません。手探りで持ち替えをします。
まず、Cockpitから来ているOn/Off切り替えのWire (天井からRegulatorに伸びているWire) を外します。そして、Oxygen Regulator (瓶左側の銀色のもの) に取り付けられている3つのTubeを取り外します。減ってはいますが、それでも1500psiの圧力の酸素がまだ残っています。取り外しはゆっくりと行います。また、Regulatorに付いているLeverをうっかり触って開けてしまうと、ものすごい音で酸素が抜けます。閉じられた空間なので、これにはかなり驚きます。まるでこの世の終りのような大音響です。
次にOxygen Bottleを支えている2つのClampを外します。とにかく、目で見ることが出来ないので、手で触って想像しながらの作業が続きます。

これで外れるようになりました。Oxygen Bottle自体はそれほど重くないのですが、これを棚から落とさないように降ろし、機外に出します。
Oxygen BottleとTCASです。記念撮影後、Oxygen Bottleは検査に行き、TCASは再び機内へ戻ります。1−2週間後、検査から戻ってきたら再び取り付けを行います。どうせ、私がまたやることになるのでしょうが…。
春先なので気温もまだ低く、それでも寒いと言うほどではないので、整備作業には快適な季節です。今日のように機内に入り込んでもそれほど辛いということはありません。しかし、これが30度Cを超える真夏の昼下がりになると大変です。去年の夏は、扇風機を使って外から風を送り込み作業をしたのを覚えています。今回は少々地味なPropの飛行機整備日誌でした。
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