PA-34-220T (Piper Seneca V) Cylinder Compression Check

PA-46-500TP (Piper Meridian) Jack Up
小型飛行機の整備で緊張する作業と言えば、飛行機のJack UpとCylinder Compression Checkではないでしょうか。Jack Upは、飛行機の翼や胴体にあるJack Pointと呼ばれる部分に油圧式のJackを置いて、飛行機を持ち上げる作業です。Retractable Landing Gear (引き込み式着陸装置) の点検や部品の交換、またはTire交換の時などに行います。PiperやMoonyといった低翼機では、Jack Upしてもさほど高さがないのでまだ安心感がありますが、Cessna 172 RGや182 RG、210 Seriesなどの高翼機の場合は、Landing Gearの動く軌跡の理由もあって、飛行機が相当な高さまで持ち上げることになります。(Propの飛行機整備日誌のTopの写真参照) この状態でLanding Gearの整備を行うことは、さすがに恐怖を感じます。

Cylinder Compression Check
もう一つのCylinder Compression Checkは、Cylinderの気密性を調べる検査です。圧縮行程のTDC (Top Dead Center: 上死点) にあるCylinderに圧縮空気を与えるので、Propellerが圧力で回転してしまう可能性があります。Propellerを細かく動かして最も高い数値を記録しますが、あまり大きく動かしすぎると支えきれなくなって、Propellerに振り回されたり叩かれたりして大怪我をします。この作業は二人で行うと安全性が高いのですが、実際には片手でPropellerを支えて片手でGaugeを操作と、一人での作業になります。慣れないうちは助けを借りた方が賢明です。私はまだCompression Checkで怪我はありませんが、以前に、始動不良のEngineの原因を調べていた時にPropellerが突然回転して、頭をかすめたことがあります。今思い出しても恐ろしいです。Engine周りを整備するときには、Ingnition SwitchはOFFであることを常に確認しましょう。

Piper Seneca VのEngine試運転。Engineを十分に暖めておきます。
この検査はEngineが暖かい状態が望ましいので、通常はPre-Inspection Runup (検査前試運転) を終えて、まだ暖かい状態で行います。夏はあまり関係ありませんが、冬はEngineの保温の意味も兼ねて、Engine Cowlを全て外すのではなく、必要な分だけ外します。また、Compression Checkが終了するまでは、Engine Oilは抜かないことも大切です。もう一度Engineを再運転する必要があることがあります。次にCompression GaugeのAdapterを取り付けるために、それぞれのCylinderのSpark Plugの上側か下側、どちらか楽に届く方を一つずつ外します。Cessna 152/172ならば下側、Piper Saratogaだと上側になるかと思います。ここでPropellerを回転して、Pistonを圧縮行程のTDCに持ってきて、検査の準備が出来ました。
航空機のReciprocating EngineのCompression Checkは、Differential Checkという方法を使います。Pressure Regulatorを調節してCylinderに80 psiの圧力を与え、Cylinder側のGaugeの数値を確認します。規定では、Cylinderが一次側の75%の圧力が保持出来ていればよいので、60 psi以上であれば合格です。どんなに完成度の高いCylinder/Pistonであっても必ず漏れはあるので、100%の80 psiを保っているということはまずありません。通常は70から78 psiあたりに落ち着きます。これが70 psiを下回ると、空気の漏れる音が大きくなり、近いうちに要修理かな?と想像します。この漏れる音がAir IntakeからであればIntake Valve、ExhaustからであればExhaust Valve、Breather TubeやOil FillerからであればPiston Ringの不良となります。仮に60 psi以下になっても要修理と判断するにはまだ早く、もう一度Engineを運転して、再度Compression Checkをしたら数値が上がることもあります。Valveがうまく閉じるようになった、Piston Ringの気密性が上がった、理由はそんなところでしょうか。こういったことが時々あるので、Engine OilはCylinder Compression Checkの後に抜くことが正解です。

PA-34-220T (Piper Seneca V)
今回の相手であるPiper Seneca Vは6人乗りの小型双発機で、Continental社製の右回転のTSIO-360-RB Engineを左側の主翼に、左回転のLTSIO-360-RB Engineを右側に装備しています。左右のEngineが内側に向かって回転することは、片側Engineが停止した状態での飛行が楽に行えるという利点があります。Turbo Chargerを装備していて、38 in-Hg/2600 rpmで220 HPを発生します。このEngineは、空間的余裕を持って主翼に取り付けられているので、部品の交換や整備が比較的楽に行えます。また、Compression Checkを行うにも、Propellerが手で支え安い位置で止まってくれるので、安心感もあります。これが3枚Propellerを装備したLycoming社製の6気筒Engineだと、Propellerが左右非対称の位置で止まるので、左側CylinderをCheckする時に苦しい体勢になります。
左: 圧縮行程のTDCにおける、Piper Seneca VのPropeller位置。左右のどちらに立っても、Propellerが持ちやすい位置にあります。
右: Piper Malibu Mirageの場合。右側Cylinderでは持ちやすい位置にPropellerがありますが、左側Cylinderでは背伸びをするか座るかの選択を迫られます。
途中までは順調に行ったCompression Checkですが、左側Engineで問題が発生しました。2番と6番CylinderでCompressionの値が低かったのです。右側EngineのCompression Checkを先に行ったので、その間にEngineが冷えてしまったのかもしれません。もう一度左側Engineを運転して、再度Compression Checkを行ってみます。が、先ほどと数値はあまり変わりませんでした。実は、このContinental社製のEngineの場合は、下限が60 psiではなく、Base Lineという値を器具を使って計り、それを下限とします。ですので、仮に60 psi以下であっても、合格となる場合があります。しかし、この日のBase Lineは51 psi。残念ながら、Compression Checkの値はそれよりも低い数字が出てしまったので、判定は要修理です。と言うわけで、次回はPA-34-220T (Piper Seneca V) Cylinder Removal and Installarionです。
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