X線回折 (粉末法による実験)

 

実験目的

 2,3種類の結晶の回折線を、X線ディフラクトメータにて測定し、X線回折の概要を理解する。

 

X線とは

 X線は、1985年Roentgenによって発見された。当時その性質が明確にされず、このように名付けられた。X線は目には見えないが、光と同じように写真フィルムを感光させた。また、光より透過力が強く、金属・人体などを容易に透過したので透過写真法として使われ始めた。1912年Laueにより、結晶によるX線の回折現象が発見された。このことでX線が光の一種である事が実証され、物質の内部構造の研究の新しい方法として着目され始めた。

 現在では、結晶構造の決定,応力測定,状態図の研究などにX線回折が応用されている。

 

X線の発生

 X線は電子の供給源と2枚の電極を持つX線管により発生される。2枚の電極間には数万ボルトの高電圧がかけられ、それにより電子がフィラメントから引き出されターゲットに高速で衝突する。X線は、電子が衝突した場所で発生し、あらゆる方向に放射される。それをベリリウム窓から取り出す。このX線を分析すると、ある値swl(電圧によって決まる)より長い波長の領域に連続X線が生じている。また、電圧をターゲットの金属に固有な値(励起電圧)より高くすると、ターゲットの金属に固有な値の波長の位置に鋭い強度の極大が現れる。この強度の極大は非常に波長範囲が狭く、固有X線と呼ばれる。電圧を高くすると連続X線は短波長側に移動する(X線のエネルギーが高くなる)。その時、固有X線は強度を増大されるが波長は変わらない。

 

X線の人体への影響

 X線装置を操作する人は、感電と放射線障害の二つの危険にさらされる。感電の危険は、荷電流子加速のための高電圧に起因するが、設計上充分感電防止がなされている場合が多い。放射線障害はX線が人体の組織を破壊することによるが、これを防ぐためには、X線管からでているビームと試料からの散乱X線の方向を見極め、実験者がそれらから鉛の衝立などで充分遮断されている必要がある。

 

結晶

 金属の大部分は、その外形に結晶的な様相を示さないが、顕微鏡で観察すると微小な結晶の集合体であることがわかる。また、適当な条件下では、単結晶にもなる。

 結晶とは、原子(分子)が三次元空間で周期的に配列をとる個体であり、その内部構造は、六つの格子定数を持つ単位格子により特徴づけられる。金属の代表的な構造として、体心立方格子(B.C.C),面心立方格子(F.C.C),ちゅう密六方格子(H.C.P)がある。

 

 格子方向  格子中のある方向は、その方向に平行で原点を通る直線を引き、その線上の任意の点の座標を読み、その座標を最も小さい整数の組とし[uvw]の形で表す。

 

 格子面  格子中の面は、原点から面が結晶軸と交わる点までの距離の、その軸の単位長さに対する比をとる。その比の逆数をとり、整数の組とし(hkl)の形で表す。

 

 

 

 

 面間隔  格子の中のそれぞれの面は、それぞれの面間隔を持っている。(図3)

      面間隔は、面指数および格子定数の関数である。

立方晶系では、

正方晶系では、

 ここで、a,c  :格子定数

     h,k,l:面指数

 

結晶による回折現象

 Braggの法則 単結晶によって単色X線が入射すると、各原子(分子)によって、X線はあらゆる方向に散乱される。原子が周期的に配列しているために、散乱の大部分の方向では破壊的干渉が起き散乱X線は消失し、特別な方向においてのみ建設的干渉が起き回折X線が形成される。(図4)

 図のθと格子面間隔d、X線の波長λの間には次の関係がある。

    

 ここで、θをBragg角、2θを回折角という。nは反射次数というが、この代わりに面間隔がd/nであるような仮想的な面からの1時反射だけを考える場合が多い。この時(hkl)は、 と考えるとよい。

 

粉末法による回折実験法

 Braggの法則からわかるように、回折が起こるためにはλとθに厳重な条件が必要である。すなわち、単結晶をいい加減に置き、単色X線を当てただけでは、回折X線はなかな現れない。そのため、X線回折の実験ではθを連続的に変化させるか、連続X線を使用することによって行われる。今回の実験では、粉末法による回折法を実験する。

 粉末法  結晶を非常に細かい粉末にし、単色X線を当てる

 結晶粒子の数が十分多く格子面の方向がランダムになっているとすれば、どの格子面をとってみても、回折条件を満たすような角度を持った格子面は必ず存在する。このため、ある格子面から回折されたX線は半頂角2θ(あるいは180−2θ)の円錐の母線に沿う。同様に、別の面間隔を持った格子面による回折線は、異なった半頂角の円錐の母線に沿う。つまり、粉末による回折X線は、頂角の異なる多数の円錐を形成する。

 このような円錐を円筒フィルムで受けると、入射X線の位置を中心とする同心円上の回折線模様が得られる。この同心円を一般にデバイ・シュラー環と呼ぶ。

 

ディフラクトメータの基本原理

 前述の円筒フィルムの位置に沿って、計数管を走査させることによって各デバイリングのX線強度を測定し、記録する装置がディフラクトメータである。図5のように試料を中心とした円周に沿って計数管を回転させると、X線強度が計数管の角度2θの関数として記録紙上に記録される。格子面間隔dは、測定値2θからBraggの式を使って求められる。さらに、それから格子定数が求められる。

 

実験順序

 (1)結晶の粉末を試料板に充填する。

 (2)2θの全範囲(0度から180度)の回折線を記録する。(注:装置の限界内で行う)

 (3)図8を参考にして、得られた回折線に指数付けを行う。

 (4)試料の格子定数(文献値)から回折線の角度を計算し、実験で得られた角度と比較する。

 (5)実験で得られた回折角度から、それぞれの格子定数を求める。

実験結果

Al (f.c.c) a=4.0497Å λ=1.5405Å

回折面(hkl)

文献値の2θ

実験値の2θ

実験値からの格子定数

111

38.427

38.3

4.067

   

40.1

3.819/4.493

200

44.667

44.6

4.060

220

65.014

65

4.055

311

78.124

78.2

4.051

222

82.322

   

400

98.928

99.05

4.050

331

111.827

111.95

4.051

420

116.359

116.5

4.051

422

137.122

137.4

4.050

 

W (b.c.c) a=3.1653Å λ=1.5405Å

回折面(hkl)

文献値の2θ

実験値の2θ

実験値からの格子定数

110

40.199

40.15

3.173

200

58.156

58.15

3.170

211

73.057

73.1

3.168

220

86.835

86.85

3.169

310

100.427

100.55

3.167

222

114.656

114.7

3.169

321

130.796

131.15

3.165

400

152.819

153.6

3.167

 

Cu (f.c.c) a=3.6148Å λ=1.5405Å

回折面(hkl)

文献値の2θ

実験値の2θ

実験値からの格子定数

111

43.299

43.25

3.620

200

50.428

50.4

3.618

220

74.092

74.1

3.616

311

89.892

89.9

3.616

222

95.098

95.15

3.615

400

116.860

116.95

3.614

331

136.388

136.4

3.616

420

144.564

144.6

3.616

 

 

考察

 (1)実験で用いた試料の結晶構造について構造因子を整理する。

 結晶構造因子  前述のように、Braggの法則を満たしていなければ回折X線は生じない。しかし、Braggの法則を満たしていても結晶の構造によって回折が起こらない場合がある。すなわち、回折X線の強度は次式で表される構造因子Fの二乗に比例するので、Fがゼロの時には回折が起こらない。

  

 ここで、    f:単位格子中のn番目の原子散乱因子

  (x,y,z):n番目の原子の座標

      (hkl):回折面

 式中の和の計算は、単位格子内のすべての原子について行う。

 

 今回の実験に用いた金属(Al,w,cu)の結晶構造因子は、立方晶系である。

   Al‥‥面心立方格子(F.C.C)   a=4.0497Å

    W‥‥体心立方格子(B.C.C)   a=3.1653Å

   Cu‥‥面心立方格子(F.C.C)   a=3.6148Å

 

 (2)回折角2θの角度による誤差をについて。

 (3)格子定数の角度による誤差について。

   ※(2),(3)は別紙のグラフで考察する。

   Alの中に不純物と考えられるピーク値が現れている。

   その為に、どの格子でもないものが数値上で現れてしまっている。

 

感想

 今回の実験そのものは難しいものではなかったが、実験結果をまとめるのに時間を使ってしまったことや、製図に熱中しすぎたこともあって、レポートをまとめるのが遅れてしまった。次回からはこのようなことの無いように注意しようと思う。

 実験そのものの感想といえば、X線を使うという事で少し構えてしまったが気にすることでもないことがわかった。